日本ベンチャー学会清成忠男賞

2007年 第2回清成忠男賞 受賞者・受賞論文

<受賞者氏名>山田 仁一郎 氏(香川大学助教授)
<受賞論文タイトル>「不確実性対処としての企業家チームの正統化活動」
<掲載誌名・号・年>『日本ベンチャー学会誌 Japan Ventures Review』No.8、2006年 論文

<論文要旨>

 本研究は、地方大学発ベンチャーの組織形成プロセスの課題をインテンシブな事例分析に基づいて検討し、次のようなことを明らかにした。地方大学発ベンチャーは、その組織形成の初期段階において、経営資源調達のための課題という外的不確実性と同様に、高度な内的不確実性に直面することを明示した。この不確実性に対処する方法として企業家チームが行っているのは、新たな事業コンセプトの確立を通した正統化活動である。
 正統化活動は従来、競合や規制変化などの外的不確実性に対処する方法として着目を浴びてきたが、内的不確実性を制御し、事業活動を強く推進するためにも必要不可欠であることが見出された。研究者を中核にする企業家チームは、保有する技術シーズと獲得した事業機会、地域クラスター政策などの正統性の源泉を梃子にして新たな支援や人的資源を呼び込み、事業コンセプトを確立していく。本稿は、事業コンセプトの戦略的社会性こそが地方大学発ベンチャーを性格づけるものとして、先行研究の検討とともに、新たな理論的な分析枠組みの構築を行う。
 キーワード:不確実性、正統化活動、企業家チーム、大学発ベンチャー、戦略的社会性

<Abstract>

 In this article, we argue that entrepreneur’s legitimizing activities are important process for decreasing uncertainties in the process of organization emergence in the of an academic spin-off. In the prior research, (case ) external uncertainties are regarded as crucial influence for new venture survival in order to gain resources but we identified internal uncertainties are also important, especially at initial stages of the organization formation, for successful venture growth in our intensive single case study.
 Academic entrepreneurs’ team do not instantly establish a new firm, but create a series of action which includes various legitimizing activities in order to cope with uncertainties, and they could develop their business concept among stakeholders including the regional government officials and business partners. This character of strategic sociability in the business concept makes entrepreneurs possible to overcome the liability of newness in organization emergence. In the face of uncertainty, the coherent attitude and vision by founders based on their business concept evolve with the source of legitimacy such as norms, values, cognition that are socially connected with interpreting process of business opportunities.
 Our new conceptual framework not only shed lights on limitations of existing theories on academic entrepreneurship but also contributes to a deeper understanding of important issues on the industrial innovation and regional industrial policy in the view of social context.
 Key words: Uncertainty, Legitimizing activity, Entrepreneurial team, Academic spin-offs, Strategic sociability

<受賞の言葉>

 私のような若造が、清成忠男先生の賞をいただきますことを、身に余る光栄と存じております。まず、だれよりも先に私が大学院の修士課程に入学した際に、サッポロのある大学発ベンチャーを紹介していただき、それ以降、調査研究のすべてのプロセスを親身になってご指導賜りました大阪大学大学院の金井一賴先生にお礼を申し上げなければなりません。先生の温かいご指導、厳しいご厚情を賜らなければ、私のような浅学非才の人間が研究者としてのキャリアを得るということは不可能であっただろうなと、改めてこの期に及んで振り返ります。また、ベンチャー経営の研究開発の最前線で寸暇を惜しんでお仕事をされているガルファーマ社の香川大学医学部平島光臣先生、並びに同社社長坂田進さまには、再三のインタビュー調査に応じていただいたことをこの場で深く御礼申し上げます。私が提出させていただいた論文は、ささやかな試みに過ぎないのは重々承知しておりますし、まだまだ荒削りなものではありますけれど、これを機に国際的な学術世界、ひいてはベンチャー実践の現場に貢献できるような研究を目指してまいります。諸先生、諸先輩の皆さま、今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

<清成忠男氏挨拶>

 昨年からこういう賞を設けていただきまして、大変感謝している次第でございます。今から30数年前、今日ここにいらっしゃっている専修大学の平尾さんと私と、当時専修大学におられた中村秀一郎先生と3人でベンチャービジネスという概念構成をして、問題提起をしました。その中村先生が、10月に亡くなられました。もう事実上引退なさっていたということもあって、新聞にも載らず、ひっそりと亡くなってしまわれました。しかしやはり日本のベンチャー研究においては、中村先生の功績を忘れるわけにはいかんということで、あえて今日ご紹介したわけです。なにぶん13年前に倒れられましたので、このベンチャー学会の会員の方々もほとんどご面識がないんじゃないかと思いますけれど、今日、改めて中村先生のことを讃えたいと思ったわけです。それから中村先生を偲ぶ会を3月下旬にやろうということですので、皆さまの中で生前何らかのご関係のあった方はお申し出いただければ大変ありがたいと思う次第です。
 この清成忠男賞とはまったく無関係なことを申し上げているわけですけれど、こういう賞を本来ならば、中村・清成賞にしたほうがいいのかなと思うわけです。野田一夫先生が所長をやっておられた財団法人日本総合研究所で、やはり30年ぐらい前にベンチャーの研究をやろうというので、中村先生と私で引き受けたわけです。議論の最中に研究所の研究員が、ベンチャービジネスというのは存在しないということを言ったんですね。あるのはNKビジネス、つまり中村・清成ビジネスで、あなた方の甘っちょろい問題提起に乗って会社を起こして失敗した人たちがどんどん出るだろう。非常に可哀そうであると。だからベンチャービジネスではなくて、NKビジネスだというようなことになって、その研究会が大騒ぎになりました。こんな思い出もあります。いずれにしても、こういうベンチャー研究が活発化するということを一番望んでらっしゃったのは中村先生ではないかと、今思う次第です。
 若い研究者の方々も、中村先生の中堅企業論増補第三版というのが名著ですので、ぜひこの研究史のうえでもこの本を評価していただきたいというように思うわけです。
 中村先生と平尾さんと3人で、いったいベンチャーというものをどういうふうに考えたのかという記録のような本を出しておりますので、これを受賞者の方に贈呈したいと思います。
 どうも受賞者の方、おめでとうございます。

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