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日本ベンチャー学会誌No.12 要旨 論文一覧

VENTURE REVIEW 日本ベンチャー学会誌No.12 要旨
September 2008

研究論文

秋庭 太 (日本福祉大学)
ベンチャー創業初期における企業家と外部協力者の相互作用プロセス

 本研究は、創業準備期における企業家ネットワーキングのプロセスを詳細に記述・分析することでより分析的な概念を開発することを目的としている。分析対象は硬直的だった動物保険業界に新規参入し、急成長を果たしたアニコムインターナショナル株式会社(アニコムグループ)である。
 分析の結果、これまで企業家を中心とした視点で議論されていた企業家ネットワークを、協力者側からの選別という視点で見ることによって、新たなネットワーク形成の原理が提示できることが明らかとなった。
 同時に、場およびインフォーマルヒエラルキーと本事例の企業家ネットワークの相違点について理論的視点から議論をおこない、理論的インプリケーションの提示を試みている。

キーワード:企業家、ネットワーク、動物保険、アニコム、場、インフォーマルヒエラルキー

金森 敏 (東北大学大学院経済学研究科)
中小企業におけるバランススコアカードの導入要因に関する研究

 既存研究における BSCの研究対象は大企業が中心で、中小企業に関する BSCの研究はほとんど行われてこなかった。そこで、本稿では、どのような中小企業が BSCを導入しているのか。また、BSCを導入して収益が向上した企業と向上しなかった企業では何が異なるのかを明らかにした。その結果、 BSCを導入した中小企業の特徴は①事業ドメインが明確であり、②トップマネジメントが多様な情報源を持っていた。一方、 BSCを導入して収益が向上した中小企業の特徴は、① BSC導入時において、トップが BSC導入を自らの意思であることを示し、そのために高い目標を掲げて追及していたこと、②新規のプロジェクトに専任となる人材を割り当てる余裕があったこと、③経営者のリーダーシップとして、多様な情報源を持っていたことである。

キーワード:中小企業、 BSC、導入要因、実証研究

高橋 勅徳 (滋賀大学)
埋め込まれた企業家の企業家精神

 本論文は、文化と起業の関係を捉える新たな理論的視角を提示することにある。
 先行研究において文化は、人々を起業へと動機付け、起業に際して必用な資源動員を可能とする正統性として機能するとされてきた。しかしながら、近年の制度的企業家論において、正統化戦略の一つとして文化の変革・構築が指摘されるに至り、文化に動機づけられた企業家が、何故、文化を変える動機を獲得しうるのかを問うことが出来ない、循環論的定義に陥るという課題を有することになった。
 Guard et al.(2007)らはこの問題について、企業家を文化に「埋め込まれた」存在としてとらえ、その企業家精神の発現メカニズムを捉えていくことを企業家研究の課題として指摘する。本論文ではこの「埋め込まれた企業家」の企業家精神の発現メカニズムについて、神戸元町の在日華僑の起業の事例を通じて、人々がその内に経験する「断絶」を経域に、自らのアイデンティティを問い直し、文化を再構成するプロセスとして明らかにしていく。

キーワード:文化、埋め込まれた企業家

日本ベンチャー学会誌No.11 要旨 論文一覧

VENTURE REVIEW 日本ベンチャー学会誌No.11 要旨
March 2008

研究論文

山田 幸三 (上智大学)/江島 由裕 (大阪経済大学)/黒川 晋 (Drexel大学)
技術開発型中小企業の日米比較

 この研究では、日米の中小企業支援施策の認定を受けた技術開発型中小企業の戦略とガバナンスに関する比較分析を試みる。わが国の「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」とアメリカ・Pennsylvania州のベンフランクリン・テクノロジー・パートナーズ( Ben Franklin Technology Partners)プログラムの認定企業を対象に2002年から2004年に実施した郵送質問票調査データの探索的な分析の結果、次の点が明らかになった。
 家族経営と非家族経営の戦略は日米で違いはないが、トップのビジョナリー行動は日本企業の方が顕著である。創業者経営と後継者経営の比較ではアメリカでは後継者経営の家族の出資比率が非常に高く、日本では創業者経営と後継者経営の間で戦略とトップマネジメント特性に統計的有意差がある。高業績企業の比較では日米ともに探索型戦略をとるが、日本がより探索的で多様な技術蓄積とコスト優位性を強みとし、アメリカはニッチ戦略を徹底する。高業績企業のトップは日本ではビジョナリー行動をとるが、アメリカでは業界知識をもとに分析重視である。

キーワード:技術開発型中小企業、創業者経営企業、家族経営、探索型戦略

江島 由裕 (大阪経済大学)
新事業開発中小企業の生存要因分析

 本稿では新事業開発を通じて発展を目指す中小企業の生存決定要因を戦略・マネジメントの視点から分析している。分析には、郵送アンケート調査と電話調査で収集した1233社の企業の質的データを用いた。その結果、7つの生存決定要因が特定された。そこでは、業界状況を熟知してコスト競争に巻き込まれず競争優位に戦える顧客ルートや小さな市場の選択が重要な要因として抽出された。企業家的な経営姿勢より堅実なマネジメント要素が際立った。一方、若い企業の場合は2要因が特定された。競争者より早く新商品をマーケットに導入する企業家的経営姿勢が生存の重要な鍵を握っていた。また、危険水域を脱した成長企業が失速・消滅せず存続するには7つの要因が特定された。そこでは、特に脅威の少ない事業環境下で多様な資源・知識を組織的に創造し蓄積する戦略の重要性が示された。全体、若年、成長企業に共通して、顧客との相互作用の設計、構築、発展の重要性が示唆された。

キーワード:中小企業、生存要因、戦略、マネジメント、新事業開発

事例研究論文

武藤 信義 (高知工科大学連携研究センター)
地方・都市間の経済格差是正施策

 地方・都市間の格差是正は、わが国が取り組むべき喫緊の課題の一つである。
 わが国では「国土の均衡ある発展」を目的に、戦後、様々な地方活性化策が展開されたが、それが有効に作動しなかった「取り残された地方」が画然と存在する。
 グローバル経済への更なる移行と、財政再建が進行するなか、高知県等(秋田、青森、徳島、鹿児島、和歌山、島根、岩手、長崎、宮崎、等)の大都市圏から離れた国土周辺に立地する「取り残された地方」は、格差是正策を模索している。しかし、 2002年以降の景気回復局面に於いても、有効な格差是正策の発見に、依然、苦吟している。
 本論文の骨子は、次の通り。①「取り残された地方」が自立的経済を確立できなかった理由の究明 ②地方が保有する資源に着目した地方経済自立の方法論を提起 ③その方法論を「取り残された地方」の典型である高知県に適用 ④高知県保有の有力な経営資源として森林資源に着目。現在、具体的に推進中の木材事業会社の経営革新を実証的に考察し、木材産業による「取り残された地方」の経済自立化を実現することによる、地方・都市間の経済格差是正の可能性を検討 ⑤「取り残された地方」の多くが、豊富な森林資源を有する点に着目し、本論文が提起した方法論が「地方・都市間の経済格差是正施策」として有効であることを主張している。
 以上の考察の結果として、木材産業活性化による、地方の雇用とGDPの増大を実現し、「地方・都市間の経済格差是正」に資することを目的とする。

キーワード:経済格差是正、地方産業振興、環境共生型経済、産業政策、産学官連携

松野 将宏 (東京大学)
日本版LLP制度を活用した技術移転

 平成 17年 8月より施行された有限責任事業組合(LLP)法により、人的資源を活用した共同事業化による創業促進が期待されている。本研究では、事例データを用いて、日本版 LLP制度による技術移転メカニズムを分析し、新たな技術移転パースペクティブを考察する。技術系 LLPの技術移転モデルを分析枠組として、技術特性、不確実性、資源補完性、複雑性、 LLPの組織・制度的要因を分析指標とし、以下の点を明らかにした。技術系 LLPでは、実用化段階にあるミドルステージ技術を開発のコアとしており、その応用開発や用途開発、製品化を目的として設立される。産学間で分業しつつ、共同開発を通じてバリューチェーンを構築している。先端技術分野ほど複雑性は高くなく、提携関係も多くない。以上の考察により、技術移転メカニズムの分析においては、制度的要因を含めた包括的枠組で議論する必要があることを指摘する。

キーワード:日本版 LLP、技術移転、不確実性、資源補完性、複雑性

長谷川 克也 (早稲田大学)
コーポレート・ベンチャー・キャピタルに関する一考察

 大手電機メーカー 6社の事例研究を通して、日本企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル (CVC)活動を分析した。各社とも技術開発の自前主義を補う手段としてのCVC活動を1990年代半ばから展開しているが、その目的は投資益の追求よりも戦略目的を重視するものが多い。情報収集を主な戦略目的とする場合には独立 VCに対して LPとして投資する形態が選択され、事業に直結した成果を追求する場合にはベンチャーへの直接投資機能を社内組織として持つ傾向が強いが、直接投資でも相当の情報収集機能を達成できることが多く、いずれを出発点とした場合にもCVCとしての経験蓄積と共に自前ファンドを持つ方向に進むパターンが多いことがわかった。従来から CVCの課題と指摘される外的要因に起因する CVC活動の継続性欠如は、日本企業でも大きな課題だが、CVCは投資回収を前提にした各種戦略目的を追求する活動と位置づけ、目的に適合した推進形態を採用すれば、CVCは外部技術を新規事業に取り込む手段として有力な手法と考えられる。

キーワード:コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)、研究開発の外部化

林 幹人 (桜美林大学)
地域ソフトウェア産業の育成を目的とした地方自治体の情報システムの調達方式の構造と企業間ネットワーク

 本研究は、地域のソフトウェア産業の育成を目的に地方自治体において導入された情報システムの調達方式の適用事例を比較参照して、調達方式の構造的特徴と企業間ネットワークとの関係を明らかにしようとするものである。本研究では特に、ある地方自治体で例外的に採用された「分割発注共同開発方式」というべき調達方式に着目する。それは、モジュール化された契約システムと統合化された協働システムによって特徴づけられ、結果として、その調達への地域のソフトウェア企業の参入と、参入企業同士による企業間ネットワークの形成を促す可能性がある。そのことは、単独での能力に厳しい制約のある零細企業が多数を占め、大手企業を中心とする拘束的な企業間ネットワークが張り巡らされた地域のソフトウェア産業の育成にとって重要である。

キーワード:地方自治体の情報システムの調達方式、企業間ネットワーク、産業育成、地域ソフトウェア産業、事例研究

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