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日本ベンチャー学会誌No.6 要旨 論文一覧

Japan Ventures Review 日本ベンチャー学会誌No.6 要旨
September 2005

研究論文

桐畑 哲也 (奈良先端科学技術大学院大学)
新技術ベンチャーにおけるデスバレー現象

 本論文は、新技術ベンチャーにおけるデスバレー現象とその要因について論じる。
 まず、新技術ベンチャーのデスバレー現象、すなわち優れた技術を十分に事業化へとつなげることが出来ない状態について検討するために、先端技術事業化までの段階を、基礎研究段階、製品開発段階、事業化段階の 3つに分類する。
 その上で、新技術ベンチャーに対する質問票調査をもとに、新技術ベンチャーにおいては、とりわけ事業化段階に深刻なデスバレー現象が存在すると認識されている。各段階を通じて「人材面の問題」「ビジョンの抽出や需要のコンセプト化の問題」が主要なデスバレー要因と認識されている。また、基礎研究段階のデスバレー克服状況と「市場ニーズの明確化及び共有化」に向けた取組み、製品開発段階のデスバレー克服状況と「トップダウン型経営」「市場ニーズの明確化及び共有化」、事業化段階のデスバレー克服状況と「公認会計士」「ベンチャーキャピタル」「弁護士」等の外部専門家との連携において有意な相関が確認されたこと等を明らかにする。
 最後に、新技術ベンチャーがデスバレーに陥らないための方策について論じる。

キーワード:新技術ベンチャー、デスバレー現象、事業化、人材、ビジョンの抽出や需要のコンセプト化、技術経営、外部専門家との連携

宇田 忠司 (神戸大学大学院経営学研究科)
企業家のキャリアを捉えるパースペクティブ

 本研究の目的は、独立・起業に焦点化した既存研究の限界を指摘した上で、フィールドワークを通じて、企業家のキャリアを捉えるための新たなパースペクティブを提示することである。
 具体的には、まず、企業家研究とキャリア研究という二つの領域のレビューを通じて、従来の理論的視角では一様ではない企業家のキャリアを理解できないという限界を指摘する。次いで、企業家研究とキャリア研究の接合を試み、既存研究の限界を乗り越えるために、起業における社会的埋め込みと戦略的行為に注目する分析視角を提示する。この理論的視角に基づき、キャリアのある段階での独立・起業が常態化しているコンテンツ業界でフィールドワークを実施した結果、クリエイターが社会構造に埋め込まれながらも、戦略的にキャリアを形成していることが明らかにされる。そのうえで、社会的埋め込みと戦略的行為に注目することで、企業家のキャリアの多様性を捉える新たな視角の提案を試みる。

キーワード:キャリア、クリエイター、社会的埋め込みと戦略的行為、再生産

浅尾 貴之(三菱マテリアル㈱)/東出 浩教(早稲田大学)
起業家の知能および起業行動と事業パフォーマンスとの関係

 日本国内の新興中小・ベンチャー企業の起業家535人を対象に質問票調査を実施し、起業行動 (Entrepreneurial Behavior)に起業家の多重知能(Gardner, 1983)の視点を加えた上で彼/彼女らの企業が示す事業パフォーマンスとの関係を探索した。先ず、有効な283ケースのクラスター分析により、起業家を多重知能にもとづく4つの”タイプ”-瞑想家、哲学者、お祭好き、及び音楽家に分類した。続く分散分析では、これら4タイプの起業家が見せる起業行動パターンが、統計的に有意な差をもって異なることを見出した。また、事業パフォーマンスに関してもタイプ間での差異が見られた。重回帰分析からは、知能グループごとに事業パフォーマンスを高める起業行動パターンが存在する一方、「人材開発活動」や「経営方針策定活動」といった、複数の起業家タイプにおいて事業パフォーマンスの向上に寄与する起業行動の存在も明らかとなった。

キーワード:起業家、起業行動、知能、起業家タイプ、事業パフォーマンス

事例研究論文

梅村 和夫 (武蔵工業大学)
プローブ顕微鏡ベンチャーに「日本風」は可能か

 ナノテクノロジーとバイオテクノロジーが融合して発展しつつあるナノバイオテク分野のベンチャービジネスについて、キーツールの一つである走査プローブ顕微鏡関連ビジネスに焦点を絞って考察した。前半ではプローブ顕微鏡が発明されてから今日まで約20年間の動向を日本と欧米のベンチャー企業と大企業を対比させながら概観した。日本では1999年までこの分野にベンチャー企業の新規参入はなかったが、時系列に沿って関連ビジネスを検証していくと、起業に勝算がもてない背景だったことが分かってきた。後半では1999年に設立された、日本では数少ないバイオ系プローブ顕微鏡ベンチャーである(株)生体分子計測研究所の設立からの経緯をまとめ、日本風アプローチの可能性を議論した。その結果、米国ベンチャーと競合しない顧客密着型のアプローチから始め、徐々に事業範囲を広げていくという手法に特徴のあることが分かってきた。

キーワード:ナノテクノロジー、ナノバイオテクノロジー、プローブ顕微鏡、研究開発型ベンチャー、大学等発ベンチャー

飯盛 義徳 (慶應義塾大学)
地域にふさわしいアントルプレナー育成モデルを目指して

 本研究は、鳳雛塾での実践を通して地域にふさわしいアントルプレナー育成モデルについて探索するものである。
 鳳雛塾では、情報技術を積極的に活用するとともに教室をオープンにし、地元企業を題材とした独自開発の教材によるケースメソッドを取り入れている。また、授業後にはケース教材の主人公なども交えた交流会を開催している。その結果、産官学の多彩な人々の参加、協働が実現し、ベンチャー企業、社会起業家を輩出するなど一定の成果が得られた。
 鳳雛塾の受講料は低額である。それは、産官学の様々な資源を共有しているから実現している。この互酬が信頼形成の基盤になり、数々の成果がもたらされる契機となっている。
 2004年8月に富山鳳雛塾が設立され、2005年度には複数の地域で鳳雛塾が立ち上がる予定である。今後は、理論研究の援用によってモデルを精緻化するとともに、他地域での実践を通してモデルの検証を行い、一般化を目指していく。

キーワード:アントルプレナー育成、ケースメソッド、地域、情報技術、資源共有

伊藤 嘉浩 (東北大学大学院経済学研究科)
新規事業開発プロセスにおける社外の著名企業の効果

 本稿の目的は、社内の新規事業開発プロセスにおける社外の著名企業の効果について、大成功の新規事業であるソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション」の新規事業の事例を用いて分析することである。この分析のために筆者の開発した著名効果モデルを用いた。その結果、(1)著名効果は本事例の成功に大きく貢献していた。具体的には、著名企業である任天堂は部品の大口顧客として学習効果と販売効果と社内政治効果を、共同開発の相手として学習効果と社内政治効果を、著名効果としてソニーに与えていた。(2)ただし、ソニーと任天堂との共同開発関係が破綻した際には、負の社内政治効果が生じプロジェクトに危機を与えていた。

キーワード:新規事業開発、著名企業、著名効果、ソニー、プレイステーション

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