学会誌

日本ベンチャー学会誌No.26 論文一覧

研究論文 /Article

古屋 光俊/東出 浩教

スマホサンクスカードのインターナルコミュニケーション満足度とやる気への影響

 サンクスカードは、大企業を中心に従業員同士の「感謝の気持ち」、「褒める文化」を醸成するために利用されている。紙のカードによる方法が主流であるが、導入には組織的な仕組みを必要とする。最近スマホで電子カードを送るクラウドサービスを提供するベンチャー企業も登場してきた。導入準備や集計、分析が簡単で、運営コストも安く、従業員間のメッセージ送受信も楽なため、導入を躊躇していた企業でも手軽に利用できる。新たなインターナルコミュニケーション活性化法として組織形態を問わず広く普及すると考えられる。
 本稿では、これまで導入の煩雑さから普及があまり進んでいない小規模分散型の多店舗組織におけるスマホサンクスカードの導入効果を検証した。15 名から40 名程度の飲食店チェーン5 店舗で2.5 か月運用し、スマホサンクスカードによってスタッフの仕事の満足度や横のコミュニケーション満足度が向上する可能性が示唆された。やる気の変化は確認できなかったが、どのようなメッセージを送信すれば効果的か運用面での実務的な示唆を提示した。

Key words:サンクスカード、インターナルコミュニケーション満足度、やる気

事例研究論文 /Case Study

高橋 勅徳/小江 茂徳

ベンチャー企業におけるアメーバ経営の導入

中小ベンチャー企業へのアメーバ経営の導入は、高収益と高付加価値の両立をもたらす可能性が高いことが知られている。この点に関して、アメーバ経営の先行研究では、高収益を独自の管理会計システムの機能に、そして高付加価値を特異な経営理念の浸透を図る教育システムに対応させる形で説明してきた。しかし何故、厳密な管理会計システムの中で、従業員が高付加価値製品の開発に向かうのかについて、先行研究では一貫した説明を行う理論的視座に欠けていた。そこで本研究では、この課題を克服する為に、組織文化論の持つ理論的視座に基づき、独自の管理システムを構築し、運用する管理者行動に注目した分析視角を提示する。その上で、アメーバ経営を導入したベンチャー企業(株式会社ベアーズ)の事例分析を行うことで、高収益と高付加価値を両立する管理者行動を明らかにする。最後に、管理会計システムと経営理念を、それぞれ収益性と高付加価値に一意対応させてきた先行研究の理論的課題に対して、管理システムを前提として企業家の管理行動に注目することで、アメーバ経営が高収益と高付加価値を両立するメカニズムを論理一貫した形で説明できることの、理論的・実践的含意を明らかにする。

Key words:アメーバ経営、組織文化、サブカルチャー

石黒 順子

高校生の持つ起業家とベンチャー企業へのイメージ

日本で起業活動が低調な理由に、起業家が尊敬されない社会であることがしばしば指摘される。こうした指摘を踏まえ、起業家教育を導入する高校で、非受講者も含む全校生徒172 名(うち、受講生徒22名)を対象にアンケート調査を行ったところ、高校生らは総じてポジティブな印象を起業やベンチャー企業に対して持っていた。しかし、その敬意は、キャリアの選択肢としての起業に結びついているわけではない。
一年後、改めて同じ対象にアンケート調査を行うと、起業家教育の受講生徒では7 割が起業への意欲や自信を低下させていた。しかし、インタビュー調査では受講生徒の多くは、創業メンバーとしてベンチャー企業に参画することについて賛同した。疑似的とはいえチームで成功体験を積んでおり、そのことが実社会での創業にも活かせると考えられているようである。
「起業社会」を実現するためには、多くの「起業理解者」「創業支援者」を育成することが必要である。今回の調査対象となった起業家教育プログラムは、この「理解者」や「支援者」の育成に寄与したといえる。

Key words:起業家教育、起業家、ベンチャー企業、職業選択、高校生

日本ベンチャー学会誌No.25 論文一覧

研究論文 /Article

古屋 光俊/東出 浩教

成長ベンチャー企業の従業員満足度を高めるインターナルコミュニケーションプロセスモデル

 インターナルコミュニケーションは、企業が成長し、組織が発達する過程において、戦略的に取り組むべき課題である。本来、インターナルコミュニケーションはプロセスとして捉えるべきであるが、実証的にインターナルコミュニケーションプロセスを解明した研究は少ない。
 筆者は、ベンチャー企業の成長とインターナルコミュニケーションプロセスの関係を明らかにすべく、これまで30 名から650 名規模の国内の中小・ベンチャー企業10 ケースを調査し、プロセスのモデル化を試みた。しかしながら、理論の飽和に至らなかったことから、より規模の大きい3,000 名規模の成長ベンチャー2 ケースを調査した。調査は、社長、ミドルのコミュニケーション意図と行動、それらの行動に対する従業員の感じ方をインタビューとサーベイによって行った。
 本稿では、調査結果をGrounded Theory Approach (GTA) によって分析することで、従業員満足度を高める成長ベンチャー企業のプロセスモデルの概念、カテゴリー、プロセス図が生成されたことを示す。

Key words:インターナルコミュニケーションプロセス、GTA

藤野 義和

同族による経営の維持と終焉の論理

 本研究の目的は、第一に、戦略グループ研究の知見を活用し、新医薬を主とするわが国の主要企業における、1970 年から2010 年までの戦略変化と同族関与の変化の類似性を調査・分析する。第二に、その結果をもとに同族企業研究において見過ごされてきた分析視角を提示することにある。
 明らかとなる事は、第一に、輸入医薬品が同族的戦略志向性を支える安定的な収益源となっていた。第二に、海外企業の対日戦略強化により、収益構造の安定化をもたらした輸入戦略の選択が難しくなった。最後に、規模の大きな企業は輸入から輸出へと転換する過程で同族関与が終焉する傾向がみられた。

Key words:医薬品産業、移動障壁、輸入戦略グループ、同族的戦略志向性

事例研究論文 /Case Study

木村 隆之

遊休不動産を利用した「利害の結び直し」として読み解かれるソーシャル・イノベーション

 近年、まちづくり研究において、企業家概念を基軸とした「ソーシャル・イノベーション」研究による理論構築が注目されている。それら既存研究は、地域の既得権益者(ステイクホルダー)を動員するために、「利害の結び直し」の分析を行う。そこには、認知的正統性に基づく価値共有と社会的正統性に基づいたイノベーションの普及を重要視し過ぎたことで抽象レベルでの統合のみの議論となっており、再現可能性の低い記述モデルとなっている。そこで、本論文では、まちづくりとは社会企業家による資源の新結合であるという分析視座に立ち、新しい価値によるアリーナの構築と、「利害の結び直し」の起点に物質的存在を介した事業の作り込みというモデルを提唱する。 このことを経験的に実証する事例として、株式会社黒壁と株式会社北九州家守舎による地域再生事例を検討する。そこでは、「遊休不動産」という物質的存在により、ステイクホルダーの資源動員を可能にし、地域再生事業を実現させていた。

Key words:地域再生、ソーシャル・イノベーション、まちづくり、遊休不動産活用、利害の結び直し

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