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日本ベンチャー学会誌No.3 要旨 論文一覧

Japan Ventures Review 日本ベンチャー学会誌No.3 要旨
November 2002

論文

松田 順 (横浜市立大学大学院経営学研究科)
革新的中堅企業におけるイノベーションの特徴と役割

 日本の産業活性化を考えるに当たり、大企業やベンチャー・中小企業に加え、第三の企業群である中堅企業が果たす役割にも注目することが必要と考える。
 本論では、医薬・製薬産業における革新的中堅企業3社を対象に、持続的成長とその原動力としてのイノベーションの特徴並びに役割について調査・実証分析を行い、中堅企業においても漸進的(改良型)イノベーションだけでなく画期的(革新的)イノベーションが起こり、これにより大企業にも太刀打ちできる経営基盤が整ったこと。そして技術的なイノベーションの源となる研究開発において大学や研究者等との交流が重要であったことが判った。今日的な表現で産学交流がイノベーションの進展に役割を発揮していた。
 調査分析結果として、3社における中堅企業の特徴として次の5点が明らかとなった。1)創業理念が明確であり社内に浸透している。2)企業成長に必要なイノベーティブな画期的商品が明確である。3)事業ドメインが明確であり、本業以外の活動は少ない。4)経営組織が確立され、経営と所有の分離が一応なされているが経営と所有の関係が近い関係にあり、創業者一族の影響が残っている。5)イノベーションが起きる源としての研究開発において、シーズ及びニーズの発掘や活用の過程で人脈の果たした役割が強い。また、これに重点を置いた継続的な事業展開を行っている。
 これら中堅企業の持続的成長を支えたイノベーションの特徴や起きるタイミングとして次の5点が見出された。1)イノベーションは10年ないし15年毎に起きる画期的(革新的)イノベーションと順次起こる漸進的(改良型)イノベーションの組合せであった。2)生産技術(工程改良)的イノベーションよりも、製品開発や製品改良によるイノベーションが多い。3)イノベーションのうち各社2ないし3件は企業収益の増大をもたらし、企業成長、基盤充実の引き金となった。(3社で22件中10件)4)自社技術による技術的イノベーションが主であるが、経営・営業的イノベーション(販売提携等)も行われている。5)自社独自商品重視の開発を行うが、産学協同を含む共同開発、技術導入等による経営資源(開発)の補完を行っていた。

キーワード:中堅企業、革新的イノベーション、漸進的イノベーション、創業理念、イノベーションの源泉と人脈

田路 則子 (明星大学)
技術蓄積とラディカル・イノベーション

 技術資源はハイテク分野での内部資源のうちでも最も重要なものと考えられ、これを技術蓄積とよぶ。本稿の調査プロジェクトは日本における半導体分野でのラディカル・イノベーションに相当する。企業は、事業化直前まで単独で内部資源の蓄積をするという方法でR&Dを進めてきたものである。事業化前に俄に投資をすることでは不十分な技術蓄積を補うことはできないことがわかった。また、相当なイニシャル投資が十分な技術蓄積のためには必要であることも判明した。結論として、ラディカル・イノベーションのプロジェクトを内的資源蓄積で遂行することは投資効率の視点において合理的ではないことがわかった。

キーワード:技術蓄積、ラディカル・イノベーション、事業化、R&Dアライアンス

小林 喜一郎 (慶応義塾大学大学院)
21世紀型イノベーションに向けて

 自らを変革し市場構造やゲームのルールを定義し直しイノベーションを達成した企業の行動を観察すると、変化をリスクというよりむしろチャンスとしてとらえているようである。本稿で取り上げた既存企業内でのイノベーション事例は、その対象、推進者および方法という観点から、1)グローバルスタンダード創出型イノベーション、2)協調型イノベーション、3)バリューチェーン変革型イノベーションに分けられる。そして実務レベルでイノベーションを担うイントラプレナーに加え、彼らをエナジャイズするイントラプレナー・アクセルレイター、組織境界を越えて外部ベンチャーとの利害調整を行うイントラプレナー・コラボレイター、そして時にはアウトサイダー的イントラプレナーの存在および役割が、イノベーションを推進するために重要であることが、帰納的事例分析によって明らかとなった。

キーワード:グローバルスタンダード創出型イノベーション、協調型イノベーション、バリューチェーン変革型イノベーション、イントラプレナー・アクセルレイター、イントラプレナー・コラボレイター

中内 基博 (早稲田大学商学研究科)
半導体産業における技術関連知識の企業間移転と流出の形態

 本稿は、知識という統一的な分析視角から日米半導体産業の逆転の歴史を再考するとともに、日米の知識移転形態の相違における理論的根拠を提示することを目的としたものである。本稿は日米半導体産業の事例分析であるが、最終的に日米間の知識移転に関連したイノベーションの相違を説明するものとして情報の粘着性仮説を提示する。この仮説を用いると、情報の受け手と送り手それぞれの企業規模(大企業かベンチャー企業か)によって移転形態が異なることが示される。それによると、アメリカ半導体産業はそれぞれの移転パターンに適合する最も粘着性の低い(コストが低い)形態を利用していることが理解される。また、特許分析を通して、知識移転形態を探求した結果、アメリカのベンチャー企業は日本のベンチャー企業と比較して、人材流動が盛んであることが示された。このことがアメリカ半導体産業における知識移転を促す要因のひとつであると考えられる。

キーワード:知識移転、情報の粘着性、特許、半導体、ベンチャー

門脇 徹雄 (高山・亀井総合法律事務所)
日本のベンチャーキャピタルの利益相反問題

 日本のベンチャーキャピタル(以下VCと略す)の投資事業組合(以下ファンドもしくは組合と略す)は、VCの利益相反行為を阻止する組合規約が不備なこともあって、その運営には不透明さが多い。特に、日本特有の現象として株式公開VC会社が5社存在し、ファンド出資者およびVCの株主との利益相反が大きな問題となっている。筆者(門脇、1997)は、VCと出資者間のガバナンスの観点から、利益相反を回避したわが国の投資事業組合規約を提言し、さらに筆者(門脇、2000)は、VCのエージェンシー理論を考察し、わが国VCのファンド運営において、モラルハザードが生じる要因とその回避策を提言した。本稿では、上記2論文を基に、VCの受託者責任と利益相反問題を、株式公開VC会社に焦点を当て考察する。

姜 栄柱 (東北大学大学院経済学研究科)
ベンチャー企業の成果影響要因に独自性はあるのか

 韓国におけるベンチャー企業の特徴やベンチャー企業を取り巻く環境が諸外国と異なるとするならば、ベンチャー企業の成果に影響する要因にも何らかの差が存在するのではないか。調査の土台が異なるということは、その結果にも差が生じる可能性を内包している。
 差は本当に存在するのか、その差はどこから生まれてくるのかを分析するために、本稿は、ベンチャー企業の成果に影響を及ぼす要因を創業者、戦略、資源・ネットワーク能力という3つの要因に分類し、多くの諸外国の先行研究と韓国の研究との比較を行った。その結果、いくつかのところで意外な差が存在することを発見し、その原因の分析を試みた。

キーワード:韓国、ベンチャー企業、成果影響要因

事例研究

近藤 正幸 (横浜国立大学大学院)
急展開し始めた日本の大学発ベンチャーの現状と課題

 21世紀の日本のハイテクの旗手として大学発ベンチャーに期待されるところが大きく、最近になって急速に立ち上がってきた。政府も3年間で大学発ベンチャーを1,000社にする計画を掲げて支援策を打ち出してきている。
 本稿では、大学発ベンチャーの時代的要請、定義、類型を論じた後に、筆者らが文部科学省の事業として日本で初めて実施した調査により明らかとなった現状と課題について論じる。具体的には、①大学発ベンチャーは制約が多い国立大学から多くが創出している、②担い手は教官が半数を占めドイツと異なり博士課程の学生は少ない、③ドイツに比べて起業時は資本金も多額で人員も多い、④起業動機は技術の実用化が多く、業種は製造業が多い、⑤起業時は資金が最大の課題であるが、起業後は人材確保、特許係争が大きな課題となる、⑥起業後も大学から支援を受けている、などを明らかにする。最後に、今後の支援のあり方について提言する。

キーワード:大学発ベンチャー、日本、産学連携、起業教育、起業支援

堤 悦子 (一橋大学大学院商学研究科)
潜在的企業家のリスク認知・起業の意思決定

 起業機会に直面した潜在的企業家はいかなる意思決定プロセスを経て起業の意思決定に至るだろうか。私はこの問題を、企業家各自の性格や事業機会をみとめる企業家の意思決定に認知バイアスがどのように影響しているかという観点で検討した。まずビジネス志向のある学生を対象にサーベイを実施し、因子分析とクローンバッハで質問票自体の信頼性を精査・確認した。そして企業家の性格や事実認知をゆがめるバイアスと起業の意思決定やリスク認識との間に関係をみとめるかについて回帰分析を行った。分析の結果、リスク認識の低さが意思決定を促しているが、認知バイアスとしての自信過剰、コントロール幻想、少数の法則信奉はリスク認識には影響していなかった。さらに楽観性や柔軟性は起業の意思決定に影響がなかったが、リスク性向と意思決定には関係が認められた。これはアメリカで確認されている先行研究とは異なる結果で、日本独自の問題だと指摘しうる。

キーワード:リスク認識、企業家、認知バイアス、意思決定、リスク性向

野長瀬 裕二 (関東学園大学)
地方都市における若者の進路選択と起業意識に関する研究

 近年、各地域において、企業家輩出を通じた産業活性化のための様々な仕組み作りが進められている。その一方、多数の若手企業家が活躍する地方都市は必ずしも多くない。
 中高年企業家に比し成長意欲の強い若手企業家の輩出は、地域産業活性化のためには極めて重要であり、地域から企業家精神に富む若者を輩出する風土の醸成、並びにそのためのシステム構築が今求められている。本研究においては、地域の若者を代表する存在として、地域の学校に通う学生達に焦点を絞り、その進路選択と起業意識を調査し現状分析を行う。
 本研究の目的は、企業家精神に富む若者を輩出するために、今後地域において何をすべきかを探索することとする。
 地域で事業を興したいと考えている若者は極めて少数であり、Uターン起業促進、実践的産学タイアップ、起業肯定派学生のモチベート、家庭を巻き込んだ教育、等のプログラムを立ち上げていくことが急務である。

キーワード:若手企業家、地域産業活性化、企業家精神

谷川 徹 (九州大学)
シリコンバレーにおける「会員制起業家支援団体」の研究

 シリコンバレーでは連日大小無数の起業関連セミナーが開催されている。これらは起業家に対し、ビジネスや技術に関する知識・情報だけでなく、資金、人材、取引先等、起業と成長に必要なビジネス要素への「ネットワーク機会」を提供することを主目的としており人気は高い。また成果も挙がっている。このネットワーク機会提供に力点をおいたセミナー開催を主要サービスとする「会員制起業家支援団体」が、米国特にシリコンバレーではその数と会員数を着実に増加させ存在感を増している。ベンチャー支援はベンチャーキャピタル等が主要な担い手というのが一般的認識であるが、支援対象を絞り込む彼らと異なり、「会員制起業家支援団体」は誰もが会員になれサービスを受けられるオープン性ゆえ、圧倒的多数の起業家達に貢献している。所謂「壁のないビジネスインキュベーター」と位置付けられる。こういった組織の成立し得る文化、社会風土の実現が我が国でも望まれる。

李 宏舟 (東北大学大学院経済学研究科)
中関村テクノポリスの形成とテクノポリス・ウィールモデル

 本論文の目的は、移行期経済にある政府側の役割という視点から「北京のシリコンバレー」と言われるほど注目を集めている中関村テクノポリスの形成メカニズムを明らかにしながら、テクノポリス・ウィ-ルモデルの妥当性を検証することである。中関村テクノポリスは中国のハイテク企業の密集地であり、IT産業の頭脳集積地でもある。当該地域は、中国テクノポリス政策の原点でありながら、現在でも全国各地のテクノポリスのモデルになっている。本考察を通じて、中関村テクノポリスの形成において地元の海淀区政府、北京市政府と中央政府は学術機関の研究成果の産業化促進、特別融資などを通じて、間接的でありながらプラス的な役割を果たしたことがわかった。また一部の差異があったものの、政府がテクノポリスの形成に重要な構成員であるというテクノポリス・ウィ-ルモデルの主張が正しいことも検証された。政府と市場は資源を動かす二つの力である。両者のバランスは、当該国が直面している経済発展段階、産業組織、市場構造、政治環境、国際環境を反映すべきであるが、特に経済発展の初期段階においては、政府が生産的かつ効果的に介入することは可能である。

キーワード:中関村テクノポリス テクノポリス・ウィルモデル 移行経済 政府の役割

原田 信行(日本経済研究センター)/木嶋 恭一(東京工業大学)
起業の意思決定における所得・余暇の代替と流動性制約

 近年、日本経済における創業活動の重要性が注目されている。本稿は、この創業活動について、新しく所得と余暇の代替問題を明示的に含む起業モデルを提示し、そのもとで起業の意思決定行動について詳細に分析を行うものである。分析の結果、まず流動性制約が存在しない場合と存在する場合それぞれの起業の条件、そのときの投資規模および余暇比率が求められた。さらに、流動性制約が存在しない場合には保有資産が多いほど資本投入量が減りかつ余暇比率が高まること、流動性制約が存在する場合には存在しない場合に比べて余暇比率が高まることなどが示された。最後に、これらの結果をグラフによって視覚的に確認するとともに、代数的には解を求めることが困難ないくつかの追加的なケースについて数値計算により最適解を求め、より一般的な解の性質を検証した。

キーワード:起業、企業家、企業家能力、所得と余暇、流動性制約

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