日本ベンチャー学会清成忠男賞

2013年 第8回清成忠男賞 論文部門/第1回清成忠男賞 書籍部門 受賞者

<第8回清成忠男賞 論文部門 受賞者>名取 隆 氏(立命館大学大学院教授)
<受賞論文タイトル>「ウェブサイト活用による中小企業の技術マーケティング」
<掲載誌名・号・年>『日本ベンチャー学会誌 Venture Review』No.21、2013年

<2013年度 清成忠男賞 論文部門(奨励賞)受賞者>
該当者なし

<第1回清成忠男賞 書籍部門 受賞者>福嶋 路 氏(東北大学大学院教授)
<受賞書籍タイトル>「ハイテク・クラスターの形成とローカル・イニシアティブ-テキサス州オースティンの奇跡はなぜ起こったのか」
<出版年月、出版社、ISBN>2013年3月、東北大学出版会、978-4861632006

論文

<論文要旨>


 本研究は、中小企業に必要な技術マーケティングとその具体策としての潜在顧客から”探し当てられる”戦略の効果と課題について論じたものである。研究方法として最初に命題を設定し、予備的アンケート調査を行い、課題を抽出した。次にインタビュー調査によって課題の内容を具体的に探り、新たな知見を得る方法を採った。設定した命題の第一は自社技術を「見える化」して、潜在顧客から「探し当てられる」戦略の有効性である。第二は潜在顧客から「探し当てられる」手法としてのウェブサイトの最適性である。第三は模倣リスク対策と顧客の秘密情報保護の問題である。これらの命題を検討した結果、ほぼその妥当性が認められたほか、課題に関する新たな知見が得られた。それらは次の通りである。第一は競合企業による模倣リスク対策としての製造工程の秘匿の必要性である。第二はBtoB取引のため生じる自社技術の説明困難性と顧客の限定性である。第三は顧客の問題を解決する提案力及びそのための社内体制整備の必要性である。
 結論として、ウェブサイトは中小企業が潜在顧客から「探し当てられる」ためには最も効果的な手段であると同時に、克服すべき複数の課題が存在することが明らかとなった。

 キーワード:中小製造業企業、技術マーケティング、技術の「見える化」、「探し当てられる」戦略、潜在顧客、ウェブサイト

<Abstract>

This paper discusses technology marketing needed by small and medium-sized manufacturing firms and evaluates the effectiveness and challenges of strategies for being found by potential customers. For the research method, the researcher first set propositions and examined them through the use of preliminary questionnaires, identifying important issues. Next, important issues were explored in detail by conducting interviews, through which new insights were obtained. The first proposition is that “a strategy for being found by potential customers through making the company’s own technologies visible” is effective. The second proposition is that companies’ own websites are optimal as a method for discovery by potential customers. The third proposition is that avoiding imitation by competitors and protecting customers’ technological secrets are major challenges. After examining these propositions, it was found that the propositions are almost verified, acquiring new findings relating to the challenges. The first finding is that to avoid imitation by competitors, small and medium-sized manufacturing firms should keep their original manufacturing facilities and processes secret. The second finding is that because small and medium-sized manufacturing firms are mainly engaged in BtoB businesses, it is difficult to describe their technologies clearly, and potential customers are limited. The third finding is that appropriate proposals to solve customers’ problems are required and small and medium-sized manufacturing firms need to develop their organizational structures to do so.
Finally, it was concluded that websites are the most effective means available to small and medium-sized manufacturing firms for being found by potential customers and at the same time there are several challenges which must be overcome.

Key words:small and medium-sized manufacturing firms, technology marketing, visualization of technology, strategies for being found, potential customers, websites

<第8回論文部門 受賞の言葉>

 この度は大変尊敬する清成先生のお名前が掲げられている賞をいただき身に余る光栄でございます。本当にありがとうございました。
 現在、技術経営(MOT)を研究させていただいているのですが、たまたま中小企業のMOTを研究されている方が少ないので、この分野に焦点をあてて研究を続けております。特に技術マーケティングを研究されている方は少ないと思います。この研究のきっかけは、たまたまウェブサイトで成功している中小企業の事例を見て、ある種の確信を得てはじめて書かせていただきました。
 最初の論文からレフェリーの先生方、特に江島先生にはお世話になり、色々なヒントを与えていただきましたので、この場をお借りして感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
 技術経営は実践的でなくてはならないと思っております。この論文を色々な経営者、特に中小企業の経営者に見ていただき感想を聞いておりますが、「非常に面白いが、実際にどうしたら良いのか、具体的な手法については書かれていない」とコメントをいただいております。今後の課題として、どうしたら技術マーケティングが成功するかについて、この賞をきっかけに更に研究を進めてまいりたいと思っております。本当にありがとうございました。

<第1回書籍部門 受賞の言葉>

 この度は、このような名誉ある賞をいただき、大変嬉しいと思うとともに大変恐縮しております。
 この研究は、10年間に渡り、しつこくやり続けたものです。ただ10年間も続けてこられた大きな要因としては、ひとつは良い指導者に恵まれたこと、そして大好きなオースティンに対する愛があります。
 西澤昭夫先生には、私とオースティンの出会いのみならず、その後の研究活動も色々とご助力をいただきました。この場をお借りして西澤先生にお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。
 今回の受賞に慢心せずに、精進してまいりたいと思いますので、今後もご指導、ご鞭撻のほど、宜しくお願いいたします。

<清成忠男氏挨拶>

 このたびは大変おめでとうございます。
 平尾先生と私と中村秀一郎先生の3人によるベンチャービジネス論が東洋経済の英語版に掲載されたことをきっかけに、オースティンの経営学者であるコズメツスキー教授と知り合うことになりました。当時のコズメツスキーは壮年で非常に活発で勢いがありました。高名な経営学者にもかかわらず、経営学の本を書いていないことを問うと、経営学者が自分の手の内を全部ばらすことはないという見解で周囲を沸かせていました。
 コズメツスキーに知り合ってから何度かお会いする機会がありましたが、2003年に訪問した時には、見る影もなく衰えており、その2か月後に亡くなったとのことでした。彼の晩年まで30年間お付き合いをさせていただきましたが、その間IC2研究所で何回かお会いして、2度ぐらい日本にお招きしております。彼はお金を稼ぐことに関しては大変なものがありましたが、使いっぷりも見事でした。
 コズメツスキーは全米最大のベンチャーキャピタルといわれたハイザーコーポレーションのゴッドファザーでもありました。このハイザーがアメリカのベンチャーキャピタル協会を作ったのです。設立当日にニューヨークのプラザホテルにハイザーに呼ばれて行ったところ、ハイザーがもうひとつ興奮したことを言ってきました。C CorpのベンチャーキャピタルとともにFedExに5,200万ドルの投資をし、そのプレジデントは28歳の青年であるということだったのです。
 コズメツスキーはアメリカのベンチャーの歴史に残るひとりでした。そして、オースティンに新産業のクラスターを形成するリーダーになりました。そのあたりの歴史と詳細は福嶋さんの書籍にも書かれているのではないかと思われます。
 そのような意味で、福嶋さんの書籍は私にとっても感慨深い受賞となりました。ありがとうございました。

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