日本ベンチャー学会清成忠男賞

2014年 第9回清成忠男賞 論文部門/第2回清成忠男賞 書籍部門 受賞者

<2014年度 清成忠男賞 論文部門(本賞) 受賞者>玉置 浩伸 氏(九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター特任准教授)
<受賞論文タイトル>「出身企業における破綻等の問題が起業家に与える影響に関する考察」
<掲載誌名・号・年>『日本ベンチャー学会誌 Venture Review』No.22、2013年


<2014年度 清成忠男賞 論文部門(奨励賞) 受賞者>曽根 秀一 氏(大阪経済大学専任講師)
<受賞論文タイトル>「老舗企業の継承に伴う企業家精神の発露」
<掲載誌名・号・年>『日本ベンチャー学会誌 Venture Review』No.22、2013年


<2014年度 清成忠男賞 書籍部門 受賞者>江島 由裕 氏(大阪経済大学教授)
<受賞書籍タイトル>「創造的中小企業の存亡」
<出版年月、出版社、ISBN>2014年2月、白桃書房、978-4-561-26626-6


※肩書は執筆当時

論文(本賞)
論文(奨励賞)

<論文部門(本賞)論文要旨>

 本稿では2001年~2011年に日本の株式市場に上場した新規公開企業の役員および創業者の出身企業を調査、出身企業の破綻等の問題イベントが起業の成功に影響を与えているかを検証した。
 その結果、『民事再生』、『清算』、『破産』、『私的整理』、『会社更生』など、俗に「倒産」と呼ばれるイベントが発生した企業から新規公開企業の役員が高い比率で輩出されていることが実証された。一方、『リストラ』、『合併』、『不祥事』、『持株会社移行』と役員輩出数の間には、負の相関が認められた。社齢の若い企業ほど、新規公開企業の役員を輩出する割合が高いことも確認された。
 創業者に関し、『会社更生』、『吸収合併』、『営業譲渡』、『民事再生』、『破産』という問題を経験した企業からより多くの創業者が輩出されていることも実証された。『合併』や『リストラ』を経験した企業では有意な差は認められなかった。問題企業の退出が企業の新陳代謝につながるという通説は概ね支持された。

 キーワード:IPO、破綻、倒産、株式公開、出身企業

<Abstract>

 This article discusses the influence of work experience at corporations that have experienced problematic events such as bankruptcy, on start-up success. Founders and board members of companies newly listed on the Japanese stock exchange between 2001 and 2011 (“IPO companies”) have been examined. The study found that there were significantly more board members who have work experience at “tosan” (i.e. “civil rehabilitation”, “legal liquidation”, “bankruptcy” and “voluntary liquidation”) corporations compared to those who have no such experience. On the other hand, work experience at “restructuring”, “merger”, “scandal” or “transform to holding company” corporations was negatively correlated to the number of board members of IPO companies. Company age was also negatively correlated.
 As for founders, it was found that corporations that have undergone “rehabilitation”, “asset sale”, “civil rehabilitation”, “bankruptcy” or “absorption-type merger” produced more founders. No significant differences were identified among “merger” and “restructuring” corporations. These findings support the common belief that an exit from problematic companies encourages the birth of new companies.

 Keywords:IPO, failure, bankruptcy, entrepreneur, former employer

<論文部門(奨励賞)論文要旨>

 本論文の目的は、存続に関して議論されてきた老舗企業研究について再考し、これらの問題点等を指摘した上で、老舗企業の継承に伴った新たな企業家精神の発露、発現メカニズムを捉える新たなアプローチを提示することにある。
 本論文では、具体的事例として、老舗宮大工企業である金剛組(578年創業)、竹中工務店(1610年創業)、松井建設(1586年創業)をあげる。これまでの老舗企業研究では経営者についてほとんど着目されず、議論の対象にあげられてこなかった。このことから、いかにして組織文化に変更をくわえる承業経営者が他者との関係性のもとに事業を形成してきたのか、経年的分析を通じて着目し核心に迫っていきたい。本論文作成にあたってはインタビュー調査及び史資料調査を行った。

 キーワード:老舗企業、承業経営者、企業家精神、存続要因、宮大工企業

<Abstract>

 The purpose of this paper is to present a new approach to comprehending the mechanism for developing the entrepreneurial spirit necessary to enterprise preservation. This paper rethinks the research into long-establish firms as it has been discussed relative to preservation, indicating its problematic points, and aims to approach the core of the subject by way of a new chronological analysis using case studies of various firms. They are: Kongō, Takenaka and Matsui. Kongō was founded in 578, about 1400 years ago. Takenaka, and Matsui were respectively founded in 1610, and 1586, and they are all doing good business today. This paper is based on the results of interviews and documentation research.

 Key words: Long-Establish Firms, Business Successor, Entrepreneurial Spirit, Survival Factors, Miyadaiku Carpentry

<2014年度論文部門本賞 受賞の言葉> 玉置浩伸氏

 この度は大変な賞をいただきありがとうございました。実は、私は3年ぐらい前にこの業界に研究者として入りまして、それまでの10年間程は起業家をしておりました。研究者としてはまだ駆け出しでして、実は大学の時には物理を専攻していたのですが、卒業の時にはアインシュタインの特殊相対性理論の英文の教科書を30ページほど訳しただけで卒業できましたので、論文を書きませんでした。マスターはアメリカのビジネススクールでしたので、やはり論文を書いたことがなかったのです。
 3年半前に早稲田大学の商学部の博士後期課程に入りまして、そちらで初めて論文の書き方、論文がなんたるかということを教えていただきました。今回賞をいただいたこの論文が、世に出した最初の論文です。非常に栄誉であることはわかっているのですが、実は手法は燦々たるものでして、査読者の方および編集委員をやっていただいた江島先生に大変なご迷惑をおかけいたしました。特に江島先生にはおそらく出来の悪い博士後期課程の学生を指導しているようなそのような感じで手取り足取り教えていただきましたので、今日の栄誉の半分ぐらいは江島先生にお持ち帰りいただきたいなと考えております。
 この論文のテーマは実は私の博士論文のテーマでございまして、まだ執筆中ではあるのですが、3年半前に早稲田に入った時に、指導教官である東出先生に、最初の指導の日に、貴方が論文が書けると思うテーマを2、3用意しなさいと言われまして、それで持って行ったテーマのうちのひとつがこのテーマでございます。当時は3年前の話ですので民主党政権で非常な円高で国内の空洞化がどんどん起こっておりまして、特に半導体、電機メーカーをはじめ工場はどんどん閉鎖されておりました。そういう状況で私が持って行った候補のテーマを見た東出先生がおっしゃったのが、もしこれが実証できたら、今リストラにあっている人にこういうキャリアパスもあるという、何か光のようなものを見せることができるのではないか、非常な社会貢献になるのではないかということで、このテーマを選んでいただきました。その後ご指導いただきまして、今日の栄誉の残り半分は東出先生にお持ち帰りいただきたいなと思っております。ここにいらっしゃる会場の皆様は、まだ現役バリバリでリストラとは縁遠い方ばかりだと思いますが、もし将来、ちょっとまずいかなというような時があれば、この論文を見直していただけば少しは明るい気分になるかもしれませんので、どうぞ宜しくお願い致します。本日はどうもありがとうございました。

<2014年度論文部門奨励賞 受賞の言葉> 曽根秀一氏

 本日はこのような重みのある賞をいただきまして、本当にありがとうございました。私のような者がこのような賞をいただきまして、大変恐縮しております。この論文は10年以上前に遡って研究を進めてきたものでございまして、150名以上の方々にご協力をいただき、老舗建築企業を中心に3社の比較研究を行ったものでございます。この研究を進めていくにあたって、そういった多くの方々にインタビュー、または資料提供をしていただきまして、そしてまた今日この会場でもたくさんの先生方から、また学会や研究会においても多くのコメントをいただいたり、個人的にもご指導をいただいたりと、多くのここにご列席されている先生方のお世話になりました。ここでまた改めて御礼を申し上げます。ありがとうございました。
 私の論文の内容でございますけれども、多くの方々にお話を伺い、そしてまた、老舗というとただ単に古く続いてきたように思われがちではあるのですけれども、その中でも着目しましたのが、承業経営者とか中興の祖といわれるような、伝統をただ単に守るだけではなく、変革をしてイノベーションをしていく、建築の分野であれば近代建築に移行したり、他の分野に進出したりといったような、組織文化に様々な変革を加える、そういったところに着目をして研究を行った次第でございます。
 このような研究自体が、実は、なかなか非常に時間がかかりまして、金剛組さんからお話をいただいたのも10年以上前の話でして、ほかの企業も一緒なのですけれども、一次史料を読み解いたり、亡くなる前に書いた殴り書きのような史料は、そういうのを読解するだけでも1年間かかってしまったものも中にはあったりとか、あるいは読解しても全く意味のないことが書いてあったりとか、そういうがっかりすることもたくさんありました。
 このような地味な研究に光を当てていただきまして、本当に感謝申し上げます。また、これからこうした重みのある賞をいただきまして、これに恥じぬようにこれからしっかりと精進を重ねてまいりたいと思いますので、これからもご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します。本日は大変にありがとうございました。

<2014年度書籍部門 受賞の言葉> 江島由裕氏

 本当に重い賞をいただきました。実は以前にも賞をいただいて、それが自分の励みにもなったと思っておりますので、今回もこのように重い賞をいただいたという意味では、これに恥じない研究をこれからしていかなくてはいけないということで、更に自分に対しても良いモチベーションになるのかなということを感じております。
 そういうプレッシャーもありますけれども、本の中にも書かせていただいたのですが、生存ということをキーにデータを駆使してそこから導き出すという中で、上智大学の山田幸三先生に更なるプレッシャーをいただきながら、最終的に出させていただいたものなのですが、そういうプレッシャーというか環境要因というのが、更に自分を高めていくモチベーションになるのかなということで非常に感謝をしている次第です。
 もう一人、本にも書かせていただいたのですが、お亡くなりになったのですが、当時ドレクセル大学だった黒川先生は、あの先生を見ているだけでも、すごくこちらにプレッシャーがあるぐらいの、日々がサバイバルであるというような方でした。まさにアントレプレナーシップ、研究者としてのアントレプレナーシップを大事にしながら、自分もそういう世界で生きていきたいという決意を今回改めてさせていただきました。本当に貴重な大きな賞をいただきましてありがとうございます。これからも精進したいと思っております。どうもありがとうございました。

<清成忠男氏挨拶>

 今、私は事業構想大学院大学というところで学長をやっているのですが、ベンチャーを育成している起業家育成の大学院大学です。学生定員は1学年30名で、修士課程ですから60名が全員ということになります。やや高い授業料を取っておりますけれども採算に乗るはずがないので、このような月刊事業構想というものを出し、これがだいたい今3万部ぐらい出ているのではないかと思われます。それからもうひとつ、研究所をつくっており、そこで企業との共同研究を行っており、この大学院大学と出版と研究所の3つで採算をとっており、この3つが相互に連関して教育研究の数字をあげるというビジネスモデルになっております。事業構想を扱っている大学院大学が赤字垂れ流しでは非常にみっともないということで、あえてこのようなことをやっている次第でございます。
 それと、先ほど審査委員長の平尾さんとそれから亡くなられた中村秀一郎先生と私の3人でベンチャービジネスに問題提起をしましたのが1970年頃でして、その頃日本経済新聞に書きましたものを収録した「中小・ベンチャー企業研究30年」、現時点では変わりまして40年ということになるのですが、古い本ですけれども昔のことを書いた本が残っているのでこの2冊を副賞として差し上げるということに致しました
 特にこの1970年頃のことを思い出しますと、今回、各務先生のご厚意で東大で学会が開かれたことは、私にとりましては隔世の感があるということで、感慨無量です。我々が問題提起をした1970年という年では、おそらくベンチャーと一番縁遠い大学は東大であったと思っています。当時東大の経済学部でベンチャーについて理解を示して下さった先生がそれでもいらっしゃったのですが、隅谷三喜男先生と小宮隆太郎先生、それともう一方は教養学部の<なかむらりゅうへい>先生です。この3人の先生方は非常に好意的に評価をしてくださいました。そして71年でしたでしょうか、隅谷先生から連絡があり、来年、経済学部で中小企業論の講義をもってくれないかというふうにおっしゃるわけです。理由は、その当時、中小企業と一番縁遠いのが東大で、中小企業に就職する者もいないし、中小企業に対してはむしろ非効率的なものだとか、あるいは経済的弱者だとか、そういう理解しかないのでそれでは困るというので、隅谷先生から是非中小企業の講義をしてほしいということで、引き受けたわけでございます。
 しかし実際に引き受けてみますと、学生が非常に多く集まったということと、他の学部からも聞きに来たということ、更には大学院生まで聞きに来ていたという記憶があります。その時の教え子の一人が、今、和歌山県知事になっている仁坂さんです。何人か当時の通産省に入った人がいるのですが、仁坂さんはそのうちの一人だったわけです。当時は通産省にもようやくベンチャー派という人たちが何人か出てきていましたが、だいたい中心にいたのが<おおつかかずひこ>さんという方でした。<おおつか>さんと私が通産省で議論をしていて、終わってから夜に四谷三丁目のバーに行った時のことです。そしたら、実はそこに宇澤弘文さんがいたのです。宇澤さんに<おおつか>さんを紹介したところ、宇澤さんが「お前の親父は悪い奴だ」といい始めて、ちょっと収拾がつかなくなり、慌てて話題を転換したのですが、そうしたら宇澤さんが、学者は2代続かないだろうと、小宮君もそう言っていたし自分もそう思うという話になったのです。しかし、小宮君が大内兵衛、大内力親子は例外だというわけです。そこで君はどう思うかと私に聞かれましたので、私は兵衛さんは学問的実績はゼロであるということと、力さんは間違っていると、つまり力さんは昭和30年代の経済の高度成長は例外であると言ったのです。自分の説明できないことは例外だという、それから「日本資本主義の没落」という本を当時書いていたのです。だからこれは到底学者とはいえないという話をしましたら、宇澤さんが大変喜びまして、大変妙な話でした。ところが宇澤さんがこの前亡くなられて、息子さんがテレビに出てこられたのを見たら、名古屋大学の教授をやっているのですね。とにかく当時は宇澤さんとはベンチャーに関してはほとんど議論がなかったわけですが、宇澤さんと色々と議論をされておられた小宮さんは非常に現実に関心があって、理解をしておられたということなのです。そういう点からしますと、本当に隔世の感があるということと、それからおそらく大学発ベンチャーがやはり軌道に乗って、そしてこの新しい姿勢に入ったのではないかと思います。北大の浜田さんが主宰をしている大学発ベンチャーの議論に私も参加したことがあるのですが、その時は否定的な評価が強かったのですが、しかし最近非常に良いベンチャーが出てきたということです。今、私が勤めております、事業構想大学院大学でもゲスト講師として、東大発ベンチャーのアクセルスペースという会社の中村さんという37歳の社長に来てもらって議論をしたのですけれども、なかなか戦略的な会社でした。
 それから、ベンチャー後発国であったドイツがEXISTという大学発ベンチャーを支援する制度を1998年につくりました。これが最初の7~8年は鳴かず飛ばずだったのですが、ここにきて相当に伸び始めたのです。今年15年ということでその総括をやったのですが、シンポジウムをやり、報告書も出したのですけれども、それによると大学発ベンチャーがだいたい3,750社だったということと、成功がずいぶん出てきたこと、それから127大学これに参加したことが報告されています。ところがドイツは全部で397大学なのです。そのうち127大学が参加したわけです。そのうち6校が特別に創業者大学という名称を使ってもいいということになり、そのうちのトップがベルリン工科大学ということです。もう30年ものベンチャー育成の歴史を持っていて、大変成功しているわけでございます。しかし、そのベルリン工科大学も、タイムズのランキングで行きますと、200位ぐらいでそんなに高くなかったと思います。しかし中の指標を調べてみますと、産学連携で非常に高い業績を上げていることがわかります。これは応用研究に力を入れている大学だということです。そういう意味では、タイムズのランキングで1位のカリフォルニア工科大学だとか、あるいはマサチューセッツ工科大学だとか、UCバークレーだとかとは若干違う趣があります。そういうランキングで上位の大学は研究型大学で、基礎研究も非常に強い大学です。しかし、カリフォルニア工科大学なんかは、にもかかわらずインダストリアル・インカムが高いのです。ですから基礎と応用の両方をやっているということですが、ベルリン工科大学はむしろ産学連携、ベンチャー育成にもっぱら専念をして大変業績を上げているということがわかってきたわけです。
 ベンチャー後発国がここへ来て、大学発ベンチャーの業績を上げ始めているということで、日本も色々と調べてみますと、ずいぶん良い企業が出始めているということです。そういう意味では、今回のベンチャー学会がここ東大で開かれたということは、やはり大学発ベンチャーに新しい時代が来たという象徴だったということと、それから最初に私が話をしました、隅谷三喜男先生、宇澤弘文さん、<なかむらりゅうへい>さん、みんな亡くなってしまったということでは、一つの時代が終わって、そして新しい時代が始まったのではないかというような気がしております。そういう意味でも今回は記念すべき大会であったのではないかという感想を持っております。

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